ゲッカ
ビジン


 3





 翌朝、ロイは暫定的にリビングのテーブルの上に置いていた月下美人の、蕾を付けた茎の曲がり具合に変化を見付けた。
 夫人の説明によると、月下美人の蕾を付けた茎はU字形に曲がっているのだが、開花当日の朝になると、その曲がった角度が若干開くのだという。七つある蕾の内、一つにその症状が見られた。
「うむ。去年もここまでは確認できたのだ」
 なんだか茎が重そうにして支えている風情の蕾を見ると、昨日までは赤味が強かったのが、今は花弁と思われる部分の白が目立つようになってきていた。

「急いで帰って来るから、今夜は綺麗な姿を見せておくれ」

 そう言いながら猫の顎を撫でるように蕾を指の背で撫で……ようとして、ロイは苦虫を噛み潰したような顔になった。

 結局、昨日かかってきたハボックからの電話だけでは、ハボックの耳に月下美人のことが入ってしまっているかどうかは分からなかった。まさか司令室に電話をかけて確かめるわけにもいかず、今夜咲いたなら、明日ハボックが帰って来る前にとっとと夫人の元へ送り返してしまおう、とロイは考えた。

 昨夜は久しぶりにたっぷりハボックに世話を焼かせて快適空間でゆっくりできるととても楽しみにしていただけに、一人寝の夜は寂しくつまらなかった。更に、当然のことながら今朝の送迎はハボックではない別人であったし、司令室に出勤すればもちろんハボックはいないし、あのちょっと間延びした口調が一日聞けないだけで、ロイはどんよりした気分になった。
 ハボックの声を一日中聞けないことなどザラにあるのだが、ハボックが出張や外勤、ただの非番などでいないというのではなく、ハボックの実家というロイのテリトリーの外にいるのだとなると、また感じ方が違ってくるらしい。

 昨日と比べてまるでヤル気のなかったロイだったが、月下美人を明日午前中に夫人へ返却するためには今夜の開花は見逃せないため、夕方の定時退勤に間に合うように半ギレ状態で怒りを原動力に仕事を片付けた。
 自分が何に怒っているのか分からないロイではなかったので、今日は終日執務室に篭ること、入室はホークアイのみ、ロイに用がある時は彼女を通せ、彼女には後日ホテルのディナーを奢る、という線で手を打ってもらった。

 そして、定時きっかりに司令部を出て自宅に戻ると、朝はまだ硬そうだった蕾がふっくらと膨らみ始めていた。
 開花にはまだ時間が掛かりそうだったので、着替えてから外へ夕飯を食べに行った。本当なら昨晩に引き続き今晩もハボックの手料理が食べられたはずだったのにと気分をクサクサさせながら食事を済ませ、適当につまみを見繕って買い揃えた後、自宅に戻った。

 まだ蕾が開いていない状態の月下美人の鉢をリビングのテーブルに置いたまま、その隣に買ってきたつまみを袋ごと置き、適当にワインの瓶とグラスを引っ張り出し、ソファに腰を落ち着けた。

 ………こんなに寂しいのなら、ハボックと一緒に開花を見れば良かった…。

 いや、それがとてもデンジャラスだから、ロイは真剣にハボックから鉢を隠そうと画策したのだ。
「それもこれも、あいつがあいつらしからぬことを言うからだっ」
 ロイはグラスに注いだワインを一気飲みした。

「大体、ああいうのは私みたいなのが女性相手に言って初めてキマる台詞じゃないのか?! 花よりキレイに咲いてるだの、花よりイイ匂いだの、男相手に言うか?! バカじゃないのか?! 脳味噌腐れて漏れ出してないか?!」

 去年も、初めの内はハボックも滅多に見られない貴重な花の咲くところをロイの隣で一緒に眺めていたのだ。そして、いよいよ蕾が大きく膨らみ、待ちに待った開花を迎えようとしたその時、退屈したハボックがロイを抱き寄せてキスを迫ってきたのだ。
 夫人への礼状に開花を観た感想を添えたいロイとしては、とても応じる気持ちにはなれなかったのだが、素早く急所を押さえられて、体中をあちこちまさぐられる内にその気にさせられ、それからは何というか、アレは何というプレイなのか、一種のシチュエーションプレイなのかどうか理解に苦しむが、追い上げられる姿を花に見立てられて散々卑猥なことを言われた。初めて嗅ぐ月下美人の濃厚な匂いの充満する中で、耳を塞ぐことも許されず、良いようにヤられた。

「………段々思い出してきたぞ」

 確か、その時も『お前には似合わないから止めろ』とハボックに言ったのだった。そうしたら奴は、『えーでも大佐お好きでしょー』とか『実は気に入っちゃってるクセにー』などと言って、ロイが嫌がっているのを本気にしてはくれなかった。

 それより何よりロイが最悪に嫌だったのは、それでイッてしまった自分だ…!!!

 はっきり言って屈辱だ。あろうことか花をギャラリーにして視姦プレイされるなど、鏡プレイで鏡の中の自分を相手にした方がいっそノーマルじゃないか。なのに奴ときたら、ロイを花に見立てるわ、月下美人と競わせるわ、碌なものじゃなかった。

「一体どこの誰にそんなこと教わってきたんだっ」

 そうロイが毒づいた時、不意にハボックの声がロイの脳裏に浮かび上がってきた。

 ─────大佐の真似っスよ?─────

 ……………私かー…!!!

 こんなアフォみたいな会話をスルッと思い出せたのは、一年前に全く同じ会話を交わしたせいだろう。
「全く、本当にバカじゃないのか、というかバカだアイツは。私のスタイルが、まんま自分にも適用できるなどと思うとは、浅はか過ぎてヘソが茶を沸かすわ…」
 痛む頭を抱え眉間に深い縦皺を入れながら、ワインボトルの首を鷲掴んだ。
「ああ、だから思い出さんようにしていたのか、私は」
 たぷたぷとグラスに注ぎ、それを煽って一息吐いたロイはグラスから手を離し、ソファに深く凭れて天を仰いで溜め息を吐いた。

 疲れた様子で前髪を掻き上げ、そのまま手をぱたりと腿の上に投げ出した。

「……………」

 ……ハボックは今頃、実家で寛いでいるのだろうな。

 そうだ、本来なら昨夜に続いて、今頃もきっとこのリビングでハボックと一緒に過ごせていた筈なのだ。ハボックの心づくしの料理に舌鼓を打ち、ちょうど良い湯加減の風呂で疲れを癒し、ベッドの中で至極ノーマルなセックスをして身体を満たす筈だったのだ。

 ソファに深く凭れ掛かって頭を背凭れに乗せたまま、また一つ溜め息を吐いた。明日午前で休暇が終わってしまうハボックとはシフトが合わなくなってしまい、肌を合わせたいと思っても、暫くお預けになりそうだ。

 ロイは、膝の上に投げ出していた両手を動かし、ゆっくりと自分で自分の太腿を撫で擦り始めた。
 やがてその手を太腿の間へと潜り込ませ、ある意図を持ってその付け根辺りを愛撫した。

 もう外はすっかり夜の帳が下り、薄目を開けて視線を延ばした先では厚いカーテンが、外に部屋の明かりが洩れるのを遮ってくれている。

 瞼を閉じ、吐息を漏らしながら手探りでスラックスの前立てを開き、自分の手で悪戯して若干嵩を増した部分を下着の中から取り出した。
 指の腹で先端部分を窪みに沿って撫でて刺激した後、掌で大事そうに包み込むと、そっと上下に扱き始めた。

「……ふ…、…ぅ…」

 快感に身体が震えそうになるのを堪えていると、そんなロイの耳に、聞き慣れない音が聞こえてきた。
 キシ、キシ、という僅かな音の発生源を探ろうと瞼を開けると、月下美人の姿が視界に入って来た。

 花は、すでに大きく膨らんだ蕾の先端を開き、内部を覗かせていた。

 自分を追い立てる手を止め、息を潜めて彼女の様子を見詰めていると、花びらが開く度に大振りの花が身体を揺らし、その時に立てる音が、先ほどから聞こえているキシキシという音のようだ。

 ─────大佐のもこんなに大きな音立ててますよ? 大佐のはクチュクチュって、ほら。エロいなぁ─────

「…あぁ…っ…」

 また唐突に甦ったハボックの声に羞恥で性感を煽られ、ロイは思わず喘ぎを漏らした。
 ソファに座ったままで膝を立て、股間を月下美人から見えないようにその視界から隠して、ロイは自慰に耽った。

 ─────あれ、音が変わった? 今度はジュッ、ジュッて言ってますよ。花みたいに蜜が溢れて来たんすね? 泡立ってるし、大佐ってばヤらしー─────

「うっ…、…ぅ、…は、…ぼ…、や…っ…」

 ハボックの手の強さを思い出し、それをトレースしながら自身を追い上げ、スラックスから引っ張り出したワイシャツの裾で先端を包み、最後は呻きながらその中に白濁を放った。

「…っふぅ…、…はぁ…」

 精を吐き出した余韻に浸りながら、ロイはソファの上でゆっくりと身体を弛緩させた。



「あのー、お取り込み中、スミマセン」



 突然、頭上から降ってきたハボックの声に、ロイは弾かれるように飛び起きた。

 驚いて振り返った先、ソファの背越しにこちらを見ているハボックと視線が至近距離でかち合い、ロイはジッパーが全開の前立て部分を直す余裕も無く、その場から逃げ出した。
「あっ、ちょっ、大佐!」
 しかし、ハボックの手が一瞬早く、腰を浮かしたところをロイの肩を掴んで引き戻した。ドサリとソファの同じ位置に連れ戻されたロイは、ハボックに己の状態を見られまいと、必死で肩を掴むハボックの手を振り解き、ソファに丸まって突っ伏した。

「あの、驚かせるつもりはなかったんス、すんません。けど、部屋に入ったら、なんか大佐盛り上がってるし、声かけるタイミング、逃しちゃって」

 えへ、と笑いながら、ハボックがソファの周りを回って移動してきた。そして、突っ伏すロイの足元付近の床へ膝を突く気配がした。
「……あと、辱める気はありませんでした。まさか大佐が一人でや…」
 信用性に欠ける台詞をしゃあしゃあと吐くハボックを、腕越しにギロリと睨んで黙らせた。そしてすぐに顔を腕の中に戻してハボックから隠した。

「ホントに、こんなに驚かせるつもりはなかったんです。ほんの出来心って奴で、ちょこっとだけ大佐を困らせたかっただけなんです」
 そう言いながらハボックはソファに手を突いてロイの顔を覗き込んでこようとするので、ロイはより一層顔を腕の中に隠してハボックから遠ざけた。
「……聞いたのか」
 ロイがくぐもった低い声で問うと、ロイが何を言いたいのかハボックにもすぐに分かったようで、はい、と返事が来た。
「大佐が、俺から月下美人を隠したがってるっての、すぐに分かりましたから。だから、俺が簡単には戻って来られない場所にいるとなれば、さすがの大佐も油断するだろうから、ってことで、俺としてはいきなり大佐んち踏み込んで月下美人の現物を押さえられれば、大佐の鼻を明かせるかなっと思っただけっス」
「実家うんぬんはウソか」
 半ばヤケクソになって、ロイはハボックの帰省話を頭から疑ってかかった。しかし、それにはハボックは、いいえ、と首を横に振って来た。
「実家にはちゃんと帰りましたよ。お袋が煩かったのは本当ですし。けど、やっぱり大佐の顔見てたいってのもあって、本当は今晩も泊まって行けと言われたのを振り切って帰って来たっす。急いで帰って来たんで、約束したお土産はありません。ごめんなさい」

 ハボックは笑顔でロイに話して聞かせているが、今のロイに触れるのは危険と分かっているのだろう、傍の床に膝を突いているだけで手を出そうとはして来ない。ハボックにしては賢明な判断だ。
『指一本、いや髪の一筋でも私に触れてみろ、蹴り飛ばした後で燃やしてやる!!』

 などとロイが身体ごと顔を伏せたまま怒りのオーラを発散させていると、ハボックは一旦立ち上がって台所方面に歩いて行き、そしてまたすぐに戻って来た。
 顔の近くにひんやりと冷たいものが近付けられたのを感じて目だけ出して見ると、それはガラスのコップだった。
「水です。冷たいですよ?」
 にこにこと屈託無くコップを差し出され、ロイは正直、『何考えてんだコイツ』としか思えなかった。

 一度は無視しようと思ったのだが、ハボックがいつまでもコップを差し出すポーズをやめないので、ロイは仕方なくモソモソと起き上がった。ワイシャツの裾をさっきイッた時に汚したままだったが、構わず全部スラックスから引っ張り出して腰周りを隠した。
 そして黙ったままコップを受け取ろうとすると、その手に素早くおしぼりを握らされた。ますますロイの眉間の縦皺が深くなったが、ムスッとした顔のままおしぼりを使って手を拭き、それからコップを受け取って全部飲み干した。
 飲み終えた後、無愛想にツイ、とコップを返すと、『美味かったですか?』と微笑まれた。
 それからハボックは、コップとおしぼり、それにロイが買ってきてまだ封すら開けずテーブルに置いたままだったつまみの袋を持って台所へ戻って行った。

 ロイが憮然として目の前の月下美人に目をやると、もう花弁は半分以上開いてしまっていた。
『ああ、また蕾が開く瞬間を見逃してしまった』
 しかも、今年は自分が至らぬことをしていて見逃してしまったのだ。だが、今年は今日を逃してもまだ数回チャンスはあるのだ。それもハボックに邪魔をされずに、一人でゆっくり観察できそうとあって、夫人への礼状に関しては楽観視していた。

『そもそも、去年ハボックが私にイタズラなどしなければ良かったのだ! そうしたら私だって変なことを思い出して奇行に走らなくても良かったのだッ』

 心の中で叫び、ロイがまた怒りにフルフルと震えていると、台所にいるハボックが食事は済ませたのかと聞いてきた。
「私は、お前がいなかったから、外で食べた」
 びっしりと棘を含ませて言ってやると、ハボックがスンマセンと笑いながら謝ってきた。
「今晩俺、泊まっても良いっすよね? 朝メシ腕奮いますよ」
「朝はあまり入らん」
「ありゃ、冷蔵庫の中、卵しか入ってないや」
「お前が来なかったからな!」
 ロイがツンツンして受け答えしていると、袋から出したつまみを綺麗に皿に盛り付けたものを片手にハボックがロイのところへ戻って来た。もう片方の手にはちゃっかり自分の分のワイングラスを握っている。
「バターがあるのを確認したんで、朝一で牛乳買って来てプレーンオムレツ作ってあげますよ」

 つまみの皿をテーブルへ置いたハボックが、当たり前のようにロイの隣へ腰掛けるのを見て、若干腰をずらしてハボックとの距離を取ったが、隣に座ること自体は許可してやった。

 ハボックがワインボトルを手にし、まずはロイの空のグラスに注ごうとするのを、ロイは横からボトルを奪い取ってそれを邪魔した。そして、さっきのように手酌でグラスを半分ほど満たすと、次いでハボックが持ってきたグラスにも同じくらい注いでやった。
 礼を言うハボックに、『ふん』とだけ答えて、自分だけ先にさっさと飲み始めた。

 いつもはぴったりくっついて座るソファだが、拳一つ分の隙間を開けてお互い、視線は月下美人へ向けた。

「……一晩しか咲かないって、面白いっつーか、貴重っつーか」
「他に気の利いた言い回しは思いつかんのか」
「だって俺、大佐じゃないですもん」
「見も蓋もない」
「風呂、入りたいなら準備しますけど?」
「シャワー浴びるからいらん」
「時に、大佐」
「何だ」
「さっき一人でヤってる時、去年のこと思い出してたんでしょー」

 ロイは盛大にワインを噴いた。

「なッ、なッ…!!」
「“はぼっ、いやっ♪”とか聞こえましたよ」
「誰がそんなことを言ったか!!!」
「えー、だってまた月下美人さんに見てもらってたんと違うんですか?」
「さん付けなんかするな!!」
「大佐が一人でヤってるとこ見られるなら、また来年も貸し出しお願いしましょうよー」
「語尾を伸ばすな、気色悪い!!」
「けど、まさか大佐が俺のいない間に俺でヤってるとは俺、思わなかったな〜」
「勝手に決め付けるな!!」

「俺いなくて、寂しかったっすか?」

 微笑み付きで不意にそう聞かれ、それまでギャンギャン怒鳴っていたロイはグッと言葉に詰まった。

「どうなんです、大佐?」
「う……」
「ねぇ?」

 ロイは、自分の顔がすでに隠しようも無いほど赤く染まっているのは分かっていた。もちろんその顔色がロイの心情を如実に表していることも自覚していたが、それをハボック相手に認めるには、まだロイは正気だった。

「さっきも少し言いましたけど、俺としては、大佐が俺に月下美人を隠したいほど去年のアレを嫌っているというのなら、今年はちょこっと大佐をからかうだけでやめとこうと思ってたんス。けど、そうじゃなかったんスよね?」
「あれは…ッ」
「明らかに大佐、思い出してましたよね?」
「ち、ちがうっ…」

「大佐、嫌がってましたけど………やっぱり本当は気に入っちゃってたんスね?」

 二人の間にあった拳一つ分の距離はあっと言う間に済し崩しになり、ロイが気付いた時には、ハボックに半ば圧し掛かられていた。ロイは狭いソファの上で逃げ場を失い、と同時に去年と同じシチュエーションなのを察して青褪めた。

 ギシ、と音をさせてハボックが全身でソファに乗り上げ、更にロイに迫った。

「お、…お前がっ…!」

 ロイは堪らず、声を上げた。

「お前があんまり似合わないことを言うからだッ!!」

「似合わないこと、スか?」
 ぽやんとした受け答えのハボックに、ロイは地団太を踏んだ。
「わ、私のことを花扱いしたではないか! キレイに咲いただの、イイ匂いだのと、バカじゃないのかお前…!!」
 声を震わせて猛抗議するロイの様子に、最初はぽかんとしていたハボックだったが、全然堪えた風も無く、再び笑顔に戻った。

「だって、女性を口説くにはそのくらいキザな方が良いって教えてくれたの大佐ですし? それに、最中の大佐、そこらの女より超キレイだし、俺が抱きたいの大佐だけだし」
「………!!」

「さっきも俺、大佐がリビングにいるのすぐに分かったから、わざと大佐驚かせようと思って足音忍ばせて中に侵入したんですよ。そうしたら、途端に大佐のアノ時のカワイイ声が聞こえてきたんす。こっそりソファの後ろに回って覗いて見たら、大佐がうっとりした顔で、どうやら俺のこと思い出して気持ち良くなってるみたいで、ホントにもう、どうしようかと思いましたよ」

 上に圧し掛かられたままなされる告白を押し留めることも忘れて、ロイは呆然と聞いていた。

「さっき大佐、俺が似合わないこと言うって言ってましたね。例えばこんなことスか?」
 んー、と思案顔で視線を宙に飛ばした後、ハボックは爽やかな笑顔を見せてこう言った。

「“もっと綺麗に咲いてるところを見せて、大佐”」

 真っ白く眩暈がしそうな中で、ロイはハボックのキスを受けた。