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「あ…あぁ…ッ…」
「ほら、分かるでしょう? あんたのも負けないくらい、キツくなって来ましたよ」
ワイシャツ一枚羽織っただけの姿でソファに座ったまま背後からハボックに抱き込まれ、膝の上に乗せられて両脚を大きく開かされた格好でロイはハボックの愛撫を受けていた。
先ほどから響く卑猥な水音がひっきりなしにロイの耳を打ち、辺りには満開の月下美人が発する濃厚な甘い香りと、ハボックが手を動かす度強くなるロイもよく知った独特の青臭い匂いが充満していた。
「…ッ、…クソッ…ッ、あとで…覚えてろ、よ…!」
「そこは“はぼっくぅ、もっとぉ”が良いっス」
返す返す、夫人から再度の貸し出しの申し出があった時に、何故その時に感じた違和感の正体を突き止めなかったのかと、ロイは心の底から悔やんだ。ハボックもハボックだ、再三お前には似合わんと言っているのに、一向に言葉を改めないのだ!
ハボックがそれまでリズミカルに動かしていた手を止め、指先で悪戯に先端の窪みをなぞった。
ロイは、小さく悲鳴を上げて、ハボックの腕の中で仰け反った。
「あ、また溢れて来た。これ、絶対花より大佐の方がイイ匂いしてますって」
「…ッなわけ、…あるか…ッ!」
そう悪態を吐いたものの、ハボックの爪が先端の敏感な粘膜を抉り、ロイは再び切なそうな声を上げて仰け反った。そして、身体を硬直させたまま小刻みに震え始めた。
「もっかいイっときます?」
「ふッ…、うぅ…ッ、…ううぅ…ッ…!」
「ほら、大佐も負けずにキレイに咲いて、もっとイイ匂いさせてくださいよ」
キスをしようとするハボックの唇を嫌って首を逸らすも、しなやかに反り返る首筋を上へ辿った舌先が耳朶の中に潜り込み、胸の飾りまで弄られて中心を泡立つくらいに強く扱き上げられると、何度かに分けて全身を大きく震わせながらロイは吐精した。
「あの花って花びら開く時、大佐がイく時にビクッビクッてするみたいに揺れるんスよね」
ロイは何も言えずに、ただ首を横に振って嫌悪感を表した。
「またいっぱい出ましたね。俺、こっちの匂いの方が好きっス。大佐がとっても気持ち良くなってる証拠ですもん」
ハボックがロイの羽織っているシャツで濡れた手を拭き、膝の上のロイの両脇に手を入れて持ち上げて、ひょいとロイをソファへうつ伏せに下ろした。
「よっこらしょっと。下、革だから気持ち悪くないスか?」
ロイの腰を掴んで身体がまっすぐになるように据えながらハボックが訊ねた。ハボックの言う通り、前が全開のシャツから覗く汗ばんだ剥き出しの肌が革に張り付くようで気持ち悪かったが、ロイはそっぽを向いて返事をしなかった。
「えっちの最中じゃ、拗ねた姿もカワイイだけなんスが」
そう言われてロイが反論しようとした時、ハボックが無遠慮にロイのシャツの裾を捲ってきたので、ハボックの意図を察したロイはじっと黙って我慢した。
が。
「前が茎なら、こっちが大佐のつぼ、…」
ロイは最後までハボックに言わせなかった。
肩越しにキッと睨み付け、鬼気迫る形相で恥ずかしさの極みとも言うべき一言を封じた。
そんなロイの様子にハボックがロイの尻の丸みを撫で回しながら『やっぱり言うのダメ?』と言わんばかりにニッと笑うと、両手で双丘を掻き分けてそこに隠されているロイの秘所を露にさせた。まだ乾いているそこを探るハボックの指先の動きをいちいち意識が拾ってしまい、入口を押されて挿入を仄めかされる度に、再び前の方に熱が溜まっていくのが分かった。
そうこうしている内にソファが大きく軋んだかと思うと、大きく左右に割られた双丘の狭間に生暖かい滑りを感じて、ロイはぎゅっと瞼を閉じて拳を握った。
がっしり掴まれて割り広げられた隙間を、ハボックの肉厚の舌がゆっくりと舐めて過ぎて行く。
やがて広範囲だったそれが、徐々に一点のみに集まるようになった。
時折舌が離れ、ハボックがそこを視認しているのが分かる。
ロイは、握った拳に更に力を込めて、羞恥をやり過ごした。
「ココ、いつ見ても小さくてカワイイっすよね。俺のが出たり入ったりできるほど花開くなんて、とても思えねぇス」
「…! それ…ッ、嫌だと、…言ってる…!」
「えー? ここ舐めんのが?」
「バカかきさま! ッあ! …う…ッ、…んんッ…!」
絶対分かって言っているハボックにベロベロと隙間無く舐められた挙句、舌を中に捻じ込まれて、挿入時と同様に出し入れして入口の性感帯を刺激されては、声を上げて突っ伏すしかなった。見えないだけに、ハボックの舌の動きをつぶさに追ってしまうのが非常に癪だった。
「そんなに嫌っスかねぇ?」
舐め回すのに満足したらしいハボックが身体を起こしたのを感じ、ロイはほっと息を吐いた。
「お前、自分が言われるのを、想像してみろッ」
「大佐と俺じゃ比較になんないっしょ。ローション垂らしますよ」
「……用意周到だな…!」
再び双丘を割り広げられ、ハボックが潤滑剤の蓋を開ける音が聞こえてきた。ロイは、これから肌の上に垂らされる粘液の冷たさを思って身構えた。
「………、…ぅ…う…、ぁ…、…ッ…」
肌の上に垂らされた粘液を掬い取った指先が、まずは表面をゆっくりと潤していく。
「まあ、そんなに嫌わずに。ほら、月下美人も大佐のこと見てますし、もっとキレイに咲いて見せてくださいよ、大佐」
ロイを焦らす勢いでたっぷりのローションでそこを愛撫し、堪らずロイが腰が揺らめかせ始めた頃ようやく一本中へ入って来た。
様子を伺いながら徐々に根元まで埋まった指は、すぐに抜け出して行った。そしてまた再び中へ押し入り、さっきからロイが感じまくっている入口の性感帯を何度も擦ってロイの腰をぴくぴくと跳ねさせた。
気が付くと、知らず知らずの内に浮かせた腰とソファの革張りの間にハボックの空いた片手が潜り込んで、ロイの茎に指を絡めて弄んでいた。一度果てて萎えていたそれは、ハボックの悪戯に再び力を取り戻し、ソファを突くくらいに角度を変えていた。
そんな自分の身体の変化に、ロイは不意に月下美人の蕾を付けた茎が開花間近になると天に向かって頭を擡げる姿を連想し、そのあまりの発想に羞恥で全身を熱くした。
そんなロイの心情を知ってか、ロイの茎を弄ぶハボックの指先が、特に決まったリズムも無く気紛れに敏感な先端の穴をくじり、ロイは身を捩って悶えた。
そして、長い指で身体の奥深く宿る泣き所を突かれるその度に、ロイは背を綺麗に撓らせて小刻みに喘ぎながら、浮かせた腰をハボックに突き出す格好になっていた。
「あー、もうダメだ」
短くハボックの声がしたかと思うと、急にロイの視界が回り、仰向けにさせられた。
「あんた、可愛過ぎ」
ロイが何かを思う間も無く、胸に突くくらいに膝を深く折り曲げられ、両脚の間に腰を入れてきたハボックが剛直を捻じ込んできた。
「う……うぁ…、…ぁ…、あッ…!」
グッ、グッとまるで何かと先を争うかのように強引にすべてをロイの中に収めたハボックは、そこで一息吐いた。
だが、すぐ動くかと思ったハボックは、なかなか動き出さなかった。不審に思い、閉じていた瞼を開けてハボックを見ると、また真っ直ぐにロイを見る視線とぶつかり、途端に頬が燃えるように熱くなり、居た堪れなくなって顔を背けて逃げた。
が、その先には、艶やかに咲いた一夜限りの女王が、ハボックに組み敷かれるロイをじっと見ていた。
ロイが息を呑むのを合図にしたように、ハボックが腰を使い始めた。
最初はロイの中を掻き混ぜるようにねっとりと円を描き、だがそれはすぐに激しい抽送に変わり、静まっていた水音が再び高い音を立て始めた。
「コレでまた、咲かせてあげますね…ッ」
ロイは、自分の下半身から響く水音とハボックのその台詞を聞きたくなくて、両手で耳を塞いだ。しかし、それはすぐにハボックに剥ぎ取られ、手首ごとソファに縫い付けられた。
「駄目ッス、大佐」
そして更に激しく腰を打ち付けられ、ロイは高い悲鳴を上げた。
「アアァ…ッ、ま…ッ、ァ、ハボッ、…あぅ、あうッ…あぁッ、…ッ、…!」
水音に汗ばんだ肌と肌がぶつかる音が加わり、その合間に二人分の熱い息が混ざり合う。キツい責めに呼吸を合わせようとするものの、唇から迸る嬌声がそれを邪魔し、ロイは翻弄された。
狭いソファの上で身体を窮屈に折り曲げられたままハボックに身体を深く抉られ、強烈な快楽に我を忘れた。
今あるのは、短く繰り返される濡れた吐息と激しく軋むソファの音。
身体を抉るハボックの熱と絶頂への期待。
そして、ロイを見詰める妖花の纏い付くような甘い芳香と─────。
こちらが観るつもりが観られる立場になったような錯覚に倒錯を感じ、ますますロイは劣情を煽られた。
それまでロイの顔を見ていたハボックが、上体を倒してロイの背中に両手を回してロイを腕の中に抱き込んだ。ロイも、ハボックの太くて頑丈な首に両腕を絡ませてしがみ付いた。
二人どちらからともなく相手の唇を探し出し、口元が汚れるのも構わずに、深く深く舌を絡め、互いを舐め合った。
「ね…、たいさ、…」
荒い息の中からハボックがロイを呼んだ。
「昨日の夜…、俺がいなくて、……寂しかったっすか?」
しかし、ロイは激しい律動に言葉を発することができず、ただ首を横に振った。
「…寂しかったっすか…?」
ロイはそれにも喘いだだけだった。
すると、ハボックが腰を止め、改めてロイをきゅっと抱き締めた。
「俺は、寂しかったっす…」
俺のは自業自得ですけどねと、へへっとハボックが笑った。
「…私も寂しかった」
「はい?」
「聞こえなかったのならいい、このバカ…ッ!!」
その直後、ロイはヤニ下がるハボックに開花へ導かれ、ハボックの情熱を身体の一番深いところで受け止めた。
「あれ、大佐、月下美人はご自宅へ持ってお帰りになったんじゃなかったんですか?」
翌日、また朝から一日勤勉に業務をこなし終えたロイが執務室で新聞を読んでいるところへ、再びフュリーがロイのサインを求めてやって来た。そして昨日と同じ、ソファセットのローテーブルの上に月下美人の大振りの鉢植えが置いてあるのを発見して、不思議そうにロイに訊ねた。
「うむ、一旦持ち帰ったのだが、昨日お前とファルマンが花を見たことがないと言っていたのでな、どうせなら皆で楽しもうと思って、ハボックに持って来させたのだよ」
などとカッコ良くフュリーには言うが、実態はもうハボックに隠す必要が無くなった、つまり月下美人が帰るまでもう二人のシフトが合うことはなく、ハボックの言葉責めに怯えなくてもよくなった、ということだ。
昨夜はあのままロイはオチてしまい、朝までぐっすり眠ってしまったのだった。起きてから月下美人を確認すると、彼女はリビングのテーブルの上で、昨夜咲かせた花を萎ませてだらんとぶら下げていた。
まあ、昨夜は開花の瞬間こそ見逃したものの、多少は咲く過程を見られたなと思うものの、それに付随して思い出される記憶に、ロイは起き抜けからふつふつと怒りが込み上げてきた。
その怒りはもちろん、結局は応じてしまった己に対する羞恥から来るものであった為、その矛先を向けられたハボックは、明確な理由を聞かされないままにロイに冷たくされ、出勤するロイを見送る時は、例の見えない耳とシッポを伏せてしゅんとなっていた。
「多分、今夜咲くぞ」
「本当ですか?」
フュリーがまた無垢な瞳をキラキラさせて喜びを顔中に表した。
「ほら、こことここの蕾を見比べてみろ。こちらの方が白くて大きく膨らんでいるだろう? こちらのまだ赤くて小さい方も数日の内に開花するのではないかな」
「わあ、嬉しいな! 僕、明日と明後日の晩非番だから、司令部に泊まって花が咲くの見てても良いですか?!」
「ああ、いいぞ」
うわーい!と純粋に開花が見られるのを喜んでいるフュリーの笑顔に癒されながら、ロイは彼が持って来た書類にサインを認めた。
その時、執務室の扉が激しい音を立てて開いた。
「大佐!!」
ノックも無しに飛び込んで来たのは、ハボックだった。
その剣幕と切羽詰った声色に、また市街でテロ事件が起きて死傷者が多数出でもしたのかとロイに緊張が走った。
「どうした?!」
「種蒔きを忘れてました!!」
「はっ?」
「いやだから、昨日言うの忘れてたんスよ、大佐の種ま…うあちぃ!!」
ロイは冷静に、だが素早く光の速さで机の引出しから赤い練成陣入りの手袋を出し、手に装着するとハボックの前髪を焼いた。
「勤務中に何を考えとるんだ、痴れ者が」
「いやだって、今朝大佐が機嫌悪かったのって、もしかしてそれかって思って…!」
「はあ?!」
「いやだから、昨日俺、途中から夢中になっちゃって言うの忘れちゃって、本当はもっとアレコレ言って大佐をよろこ…うわわわわ、書類の傍で発火はダメっす!!」
執務机越しに発火布の手をハボックにガッシリ押さえられて、ロイは渋々といった様子で手を収めた。
「あ、じゃあ、これでどうです?」
イイこと思い付いた!と言わんばかりにハボックがロイに詰め寄った。
「………」
言ってみろ、と視線と顎で促した。
「俺のを大佐に蒔いたってことで一つ」
ロイは、全力で脱力した。
「お前、それしか考えることは無いのか、このエロ犬が」
ロイが冷ややかな眼付きで呆れたように言うと、一緒にその場にいるフュリーが思い切り首を傾げていた。
「エロ犬?」
「フュリー曹長、あまり深く考えないように」
不意に横合いから違う声が聞こえたので、そちらを振り向くとホークアイだった。
「誰、扉を開けっ放しにしているのは。曹長、それ早く持って行かないと、総務の窓口が閉まるわよ」
「あ、そうでした! サイン、ありがとうございました、大佐! では、失礼します!」
元気良く挨拶してフュリーが退室すると、ホークアイがロイに向き直った。
「大佐、お待たせしました」
「いや、時間通りだよ。では、行こうか、中尉」
ロイが発火布の手袋を仕舞い、帰り支度を済ませるまでの間、ホークアイとハボックが話しているのが聞こえた。
「これから大佐にホテルでディナーを奢っていただくのよ」
「え、なんスかそれ、中尉?」
「実は、私も何故大佐から豪華なディナーを奢ってもらえるのか、分からないの」
「ええっ? ちょ、大佐?!」
慌てた様子のハボックがロイの名前を呼ぶも、ロイはわざとツーンと知らんぷりをした。
「ね、ちょっと、待って大佐?!」
ハボックの狼狽振りをイイ気味だと思いつつ、ロイはホークアイににこやかに笑い掛けて、彼女を伴って執務室を出た。でも、後を追い掛けて来るハボックがちょっぴり可哀想になり、ロイは理由をほんの少し教えてやることにした。
「私をイジメた罰だ。自業自得なのだろう? 甘んじて受けろ」
ハボックの戯れのせいでロイは一晩寂しい思いを味わった上に、変な羞恥プレイにまで付き合わされたのだ。何か仕返しをしてやらないと気が済まないことこの上ない。
「大佐だって気に入ってたクセにー!」
ハボックの血迷った叫びに足を止め、振り返って睨んでやると、『ほんの出来心で』とか『だって花がキレイだったし』とか『やり過ぎましたスンマセン』とか矢継ぎ早に言いながら、ハボックが段々不安そうな顔付きになっていくのが分かった。
「……一週間後、あの美人はセントラルに帰す。それまでの彼女の世話と、次に休暇が重なった時はお前の時間を丸々私に捧げろ。それで許してやる」
ロイに叱られて鼻をピスピス鳴らすハボックがあまりにも可愛らしくて、つい許してやった。
ハボックに言い渡した内容は別段罰にもなっていなかったが、次回二人の休暇が重なった時こそロイはハボックに食事を作らせ、ついでに台所を片付けさせ、そのついでに風呂の世話と寝床の世話をさせ、そのついでのついでに家中に箒をかけて水拭きをさせよう、窓拭きも含む、と計画を立てた。
司令部の外に出ると、西の空には綺麗な夕焼けが出ていた。そしてまた今夜も、女王の謁見の時間がやって来る。
「次にいつ休みが合うか楽しみだ」
「そうですか。少尉も大変ですわね」
「何、それが良いのだよ、中尉」
月下美人はロイの執務室から大部屋へと移され、その白く輝く艶やかな姿で夜勤の軍人達の拝謁を受けた後、ロイの感想文付きの丁重な礼状を携えて、セントラルの将軍夫人の元へ帰って行ったのだった。